臓腑間関係について

中医弁証は、一言で言ってしまうとそれぞれの症状がどの弁証名に当てはまるかということを結びつける学問です。ですから、それぞれの弁証の基本症状や主症状を暗記すれば中医弁証は簡単にできるようになります。
このページでは中医基礎の根幹である、八綱弁証、気血津液弁証、臓腑の生理作用と病理状態、臓腑間関係をしっかりと理解・暗記しましょう。そうすれば臓腑弁証自体はそれほど難しいものではありません。

八綱弁証は、陰陽、表裏、虚実、寒熱の八つの陽綱を基本として身体の状態を鑑別するものです。
これらの陽綱は、単独で疾病や症状の原因となることもありますが、多くは複合して人体に影響することによって病因(病気の原因)となります。
単なる概論としてではなく、特に虚実・寒熱の各要素は直接弁証に結びつく事柄なため、臨床的には非常に重要な鑑別点となります。○○証にはどんな症状が出現するか、それをしっかりと暗記しましょう。

・陰陽は非常に広い範囲で表現される言葉なので省略しますが、臨床的には諸説あるものの、主として陰陽の偏盛偏衰による寒熱の不調和などを鑑別し、その表現として用いられます。

・表裏は病位および病勢についての表現であり、表は身体の中でも皮毛(皮膚など体表に近い部位)に邪気が存在している場合表証と表現します。
表証は実証ですが、皮毛を護る衛気の機能が低下したために邪気が侵襲しやすくなる表虚証もあります。

虚証は正気の不足や物質的な気血の不足により身体機能の低下した状態を指します。
実証は邪気の阻滞、あるいは痰濁、血オなど病理産物が阻滞した状態を指します。
寒証は寒邪の侵襲、あるいは体内の陽気が衰退した状態を指します。
熱証

臓腑間関係について

臓腑と臓腑の間にはどのような協調関係(生理作用)があり、その関係が失調したときにどのような弁証名になるかを説明します。
この関係は臨床上では意外と重要なことも多く、たとえば目の使い過ぎから起こった肝血虚証は腎陰虚を引き起こしやすく、肝血虚証の治療は腎陰も補った方がいいとか、虚寒症状と未消化物を下痢する脾陽虚証は腎陽虚が根本にあるためく、治療の際には温中を図るだけではなく必ず腎陽を補わなければいけないなど、知らないと治療効果が上がりにくいこともあるので、よく理解しておくことが必要です。

肝と脾

1.肝の疏泄作用が正常に働くことにより、脾胃の昇降・運化作用も健全に行われる
→肝脾不調証、肝胃不和証。
2.脾の気血の生成により肝血は滋養され、肝は体内の血液量を調節することができる
→脾気虚となると肝血虚証となりやすい。

肝と肺

肺主粛降、肝主昇発-陰陽昇降を保ち、気機の正常な状態を維持する。
1.肝気の欝滞、肝熱は、肝経に沿って上昇し肺に影響しやすい
→肝火犯肺証。
2.肺の粛降作用が失調すると肝気・肝陽の昇発が過度になりやすい。
→肝気犯肺証。

肝と腎

肝蔵血、腎蔵精-肝血の不足は腎精の欠損を、腎精の不足は肝血の不足を引き起こす
→肝腎陰虚証、肝陽上亢証。

肝と胆

胆は肝に附属しておりその経脈は相互に連絡する
→肝胆火旺証、肝胆湿熱証。

心と肝

1.心主血、肝蔵血-心は血液循環を推動し、肝は血液量を調節する。
心血の不足は肝血の不足を、肝血の不足は心血の不足を招きやすい
→心血虚と肝血虚は同時に出現しやすい。
2.心主神志、肝主疏泄-ともに精神情志活動に大きく関与する。
肝火が亢盛となると心火も旺盛となりやすく、心火が亢盛となると肝火も上炎しやすい
→心肝火旺証。

心と脾

心主血、脾主生血・統血-血の生成と運行を協力して行う。
脾気が虚すと、血の生成の低下や運化作用の低下のために心血が不足し、思慮過度などのために心血が消耗されると脾の生理機能に影響が及ぶ
→心脾両虚証。

心と腎

1.心火は下降して腎陽が冷えすぎないよう暖め、腎水は上昇して心陰を滋養し、心陽が亢進しすぎないよう冷やす
→心腎不交証。
2.心主血、腎蔵精-血と精は互いに滋生し合い、不足を補い合う。
心血の不足は腎精が補い、腎精が欠損すると心血を補充しにくくなり、その結果脳を満たしにくくなるために失眠、健忘、多夢などの症状が出現する。

心と肺

心主血、肺主気-血液循環の促進は肺気の援助を受け、肺気の輸布は
心気、心血の援助を受ける→心肺両虚証。

心と小腸

表裏をなし、心の火熱は小腸に、また小腸の熱は心に影響しやすい。この場合に、口内炎、舌の糜爛、小便短赤、排尿時の尿道灼熱痛などが出現する。

心と心包

心包は心の外衛であり心を保護する-外邪が心に侵入する過程では、まず心包が発病する
→熱入心包証。

脾と肺

この関係では、主として気虚と水湿代謝に影響が現れる。
1.脾気虚が肺に影響して宣発・粛降作用に影響が及ぶと、咳喘、多痰、呼吸促迫などの症状が現れる。
2.肺気虚が脾に影響して運化作用に影響が及ぶと、眩暈、面色萎黄、四肢に力が入らないなどの症状が現れる。
※脾気虚から肺気虚、肺気虚から脾気虚→脾肺両虚となりやすい。
3.肺の粛降作用が失調し水湿が停滞すると、脾陽が損傷され水腫、倦怠感、腹脹、便溏などの症状が現れる。

脾と腎

1.腎陽が虚すと脾陽を温煦できなくなる→脾腎陽虚証。
2.腎の精気は、脾の運化する水穀の精微を補充・化生することで満たされる→脾腎両虚証。

脾と胃

1.胃主受納、脾主運化-飲食物の消化、吸収および水穀の精微の輸布を行う。
2.胃主降、脾主昇清-胃は糟粕を下部の腸管へ伝導し、脾は水穀から得た精気を肺へ送る。
3.胃は湿潤を好み乾燥を嫌う、脾は乾燥を好み湿潤を嫌う。
これらが正常に保たれることにより人体の消化、吸収機能の維持に大きく関わる。

肺と腎

1.肺主呼吸、腎主納気-呼吸は肺が主るが、吸気は腎精が充足していて初めて深く吸うことができる
→慢性の肺気虚、呼吸困難、喘息など。
2.肺は水の上源、腎主水→咳逆、喘息が激しく横になれない、水腫。
3.肺と腎の陰液は相互に滋養し合う
→肺腎陰虚証。

肺と大腸

肺主粛降、大腸主伝導-粛降作用の助けにより大腸の伝導は通暢して正常な排便ができる。また、大腸の伝導が通暢することにより、肺の粛降作用は維持される。

腎と膀胱

腎気は尿の制約、津液を尿に気化するという膀胱の開閉作用を助ける。
→排尿困難、尿失禁、遺尿、頻尿など。

は熱邪の侵襲、あるいは体内の陽気が亢盛となった状態を指します。
ただし寒熱も、その原因によってさらに虚実に分類され、症状の違いとともに治療法も変わってきます。
以下に、寒証と熱証における虚実の鑑別点、およびそれぞれが臓腑に波及した場合の主症状をまとめます。

寒証は実寒証、虚寒証に分類されます。
:さらに実寒証は、表実証(表寒証)と寒邪犯胃証(寒邪直中証)とに分類されます。
・表実証-悪寒発熱、頭痛、身体痛、無汗など、感冒の症状が出現する。
・寒邪犯胃証(寒邪直中証)-腹脹、腹部冷痛(拒按)、腸鳴、水様便を下痢するなどの症状が急激に出現する。
:虚寒証は陽虚証ともいい、臓腑の陽気の低下により臓腑機能が低下した状態を指す。
寒がる、四肢の冷え、腹痛(喜按)、小便清長、下痢、倦怠感、無力感、精神不振などの症状が慢性的に出現する(これらが虚寒証の基本症状となる)。さらに、虚寒証は陽気の低下している臓腑・器官によって腎陽虚証、脾陽虚証、心陽虚証、胃気虚寒証、衝任虚寒証などに分類される。
それぞれ虚寒証の基本症状に加え、それぞれの臓腑の症状が同時に出現する。
・腎陽虚証-腰膝酸軟、未消化便を下痢する、小便清長または小便不利、精神不振、陽萎、不妊など。
・脾陽虚証-食欲不振、腹脹、浮腫、身体各所の出血傾向など。
・心陽虚証-心悸、胸悶、精神疲労や精神不安、自汗など。
・胃気虚寒証-空腹時の胃カン痛、暖かい物を摂取すると痛みは軽減、身体消痩など。
・衝任虚寒証-小腹部冷痛や下墜感、水様の帯下が増える、不妊、閉経など。
以上が寒証に関する鑑別点となります。

熱証は、実証である実熱証と表熱証、虚証である虚熱証とに分類されます。
・実熱証-口渇多飲(冷飲を好む)、壮熱喜冷、面紅、目赤などの症状が出現する。
・表熱証-悪寒発熱、頭痛、発汗、口乾などの症状が出現する。
・虚熱証-口乾や口渇するが少飲、頬部紅潮、盗汗、五心煩熱、消痩などの症状が出現する。
以上がそれぞれの熱証の基本症状となる。

実熱証は、波及した臓腑により肝火上炎証、心火亢盛証、胃熱証、熱邪壅肺証に分類されます。
それぞれ実熱証の基本症状に加え、それぞれの臓腑の症状が同時に出現する。
・肝火上炎証-胸脇部の灼熱感、口苦、易怒、イライラ感や精神抑欝感など。
・心火亢盛証-心悸、心胸煩熱、口舌の潰瘍、排尿痛など。
・胃熱証-胃カン部の灼熱感や不快感、消穀善飢、歯齦出血、口臭、呑酸など。
・熱邪壅肺証-咳嗽、気喘、黄色く粘稠な痰、胸痛など

:虚熱証は、多くは腎陰虚によって起こり、また、その状態によって陰虚火旺証、陰虚内燥証、陰虚生風証に分類されます。
・腎陰虚証-虚熱の症状に加え、腰膝酸軟、耳鳴り、難聴などの症状が出現する。
・陰虚火旺証-腎陰虚の症状に加え心煩易怒、目花、めまい、夢交、夢精などの症状が出現する。
・陰虚内燥証-口やのどの乾燥が強く多飲となるが、飲んでも乾きが収まりにくい、皮膚や目の乾燥などの症状が出現する。
・陰虚生風証-虚熱の症状に加え、手足の痙攣、ふるえなどの症状が出現する。
以上が熱証に関する鑑別点となります。

ここでは、実寒・虚寒、実熱・虚熱の基本症状と、それぞれが臓腑に波及した場合の主症状を記載しました。八綱弁証のページではもう少し詳しく記載してありますので、とにかくその主症状を暗記してください。そうすれば中医弁証は楽にできるようになります。
また、上のメニューから、気血津液弁証、六淫(外感)弁証、臓腑の生理・病理、臓腑間関係経絡の流注も併せてご覧下さい。