脳血管障害後遺症に対する治療法

投稿者: | 2017年10月26日

☆脳血管障害後遺症に対する治療法

*ここでは、天津中医薬大学第一附属医院で開発され、広く臨床応用されている醒脳開竅法について説明する。

醒脳開竅法は、1972年に天津中医学院第一附属医院(現天津中医薬大学第一附属医院)院長の石学敏教
授(現在は名誉院長)を中心に開発され、主に中風後遺症の治療に応用されている。

天津中医学院第一附属医院針灸部によると、
“本治療法は、伝統中医理論を基礎に現代医学理論・臨床実践を経て確立されたものであり、これにより中臓
 腑、中経絡、中風前兆、中風後遺症、合併症に対する系統的にまとまった治法・処方・操作方法を確立した。
 1972年~1988年の16年間に、入院患者2959例の脳血管障害患者に対して醒脳開竅法による治療を行っ
 た結果総有効率は96.42%であった。”とのことである。

醒脳開竅法は、麻痺の治療だけでなく、痛みの治療、しびれの治療、筋力低下の治療などに応用でき、さらに
後述の後遺症の治療は、脳血管障害、脳挫傷を始めとした中枢神経疾患によるもの、あるいは原発的におこ
ったものに対してもそのまま治療を適用することができる。

:病因病機
1.五志過極、化火生風(肝火上炎型)
 ・五臓の五志が過極となると化火しやすく、火が盛んになると内風が生じる。この火と内風が清竅に上衝する
  ためにおこる。
2.陰虚陽亢、陰陽失調(陰虚陽亢型)
 ・陰虚となると相対的に陽気の亢進がおこる。陽気の亢進のために内風を生じ、それが清竅に影響するため
  におこる。
 ・肝気欝結のために肝の条達がうまく行えなくなり、そのために肝陽が亢進して気と血が並んで清竅に上衝す
  るためにおこる。
3.飲食不節、労倦内傷(痰濁阻滞型)
 ・普段から脾の弱い者や、木克土の強い状態にある者が、飲食不節、労倦内傷のために脾の運化作用が失調
  すると痰濁を生じやすく、この痰濁が経絡を阻滞し、または清竅に影響するためにおこる。
4.正気不足、経脈空虚(腎不足型)
 ・病後の虚弱、高齢の虚衰などは経絡が空虚となりやすく、そのために侵入した風邪が清竅に影響しておこる。

:弁証分類
1.中臓腑
①閉証-神志不清、半身不随、口眼歪斜、失語、大便秘結、小便リュウ閉など。
②脱証-神志昏迷、瞳孔散大、面色蒼白、冷汗如油、呼吸微弱・停止など。
2.中経絡
①中経-半身不随、手足のしびれ感、流涕、言語不利など。
②中絡-口眼歪斜、知覚の低下など。
3.中風前兆
 眩暈、頭痛、耳鳴り、患側半身の麻木感・無力感、軽い言語障害など。

:弁証-竅閉神匿。

:治法、取穴例、手技及び穴義
1.中臓腑
 ①閉症
  :治法-醒脳開竅、滋補肝腎。
    内関(捻転提挿瀉法)-寧心安神、疏通気血。
    人中(雀啄瀉法)-啓閉開竅、健脳寧心。
    三陰交(捻転補法)-滋補肝腎。 
    手足十二井穴-点刺-調十二経脈。
 ②脱症
  :治法-醒脳開竅、回陽固脱。
    内関(捻転提挿瀉法)-寧心安神、疏通気血。
    人中-雀啄瀉法-啓閉開竅、健脳寧心。
    気海、関元(灸)-回陽固脱。
2.中経絡
:治法-醒脳開竅、疏通経絡。
  内関(捻転提挿瀉法)-寧心安神、疏通気血。
  印堂(瀉法)、上星透百会(瀉法)-啓閉開竅、健脳寧心。
 また、麻痺症状、不全麻痺症状、脱力感などの症状を伴う場合には、
 疏通経絡を目的に、下記の経穴を症状に応じて加穴する。
  合谷((鶏爪刺)提挿瀉法)
  極泉(提挿瀉法)
  尺沢(提挿瀉法)
  委中(提挿瀉法)
  三陰交(提挿瀉法)
痙性が強い場合には、疏通経絡を目的に下記の経穴を加穴する。
  *上肢
    外関(提挿補法) 陽池(捻転補法)
    合谷(提挿補法) 陽谿(捻転補法)
    八邪(捻転補法) 局所の排刺(捻転補法)
    陽谷(捻転補法)
  *下肢
    条口(提挿補法)
    丘墟(捻転補法)
    局所の排刺-捻転補法 
3.中風前兆
 :治法-補益脳髄。
  天柱(捻転補法)、風池(捻転補法)、完骨(捻転補法)-補益脳髄。
また、病因に対する治療として、
1.肝火上炎型には行間(瀉法)、陽陵泉(瀉法)、風池(瀉法)を、
2.陰虚陽亢型には太衝(瀉法)、復溜(先瀉後補)、風池(瀉法)を、
3.痰濁阻滞型には豊隆(瀉法)、中カン(瀉法)を、
4.腎精不足型には関元(補法)、脾兪(補法)、風池(補法)をそれぞれ加穴する。

*中風後遺症の治療
 後遺症の治療は、症状に応じて下記の治療を行い、併せて内関、人中 または印堂と上星から百会への透鍼、
 三陰交への刺針を行う。また、必要に応じて中風前兆の配穴を加穴すると良い。

1.口眼歪斜(中枢性顔面神経麻痺)
 :取穴例、手技及び穴義
  太陽から地倉への透鍼。
  頬車から地倉、地倉から頬車に向けての対刺。
  頬車と地倉の間の排刺。
  禾リョウから迎香に向けての透鍼。
  承漿から地倉に向けての透鍼。
 以上の経穴に、去風通絡を目的に捻転瀉法を施す。 さらに、健側の合谷(提挿瀉法)-疏通経絡。を加穴する。
2.失語症        
  :取穴例、手技及び穴義
   金津・玉液-点刺または単刺-利舌筋。
   通里-捻転瀉法-疏通心脈。
3.肩関節痛
  :取穴例、手技及び穴義
   肩グウ(捻転瀉法)-疏通経絡
   肩内陵(捻転瀉法)-疏通経絡。
   肩外陵(捻転瀉法)-疏通経絡。
   痛点(捻転瀉法)
4.内反尖足
  :取穴例、手技及び穴義
   丘墟から照海への透鍼(捻転瀉法)-疏通経絡。
   解谿(捻転瀉法)-疏通経絡。
5.視野狭窄、復視などの視力障害、失明
  :取穴例、手技及び穴義
   風池(捻転補法)-明目。
   太陽(捻転補法)-明目。
6.難聴
  :取穴例、手技及び穴義
   耳門(捻転補法)-開竅聡耳。
   聴宮(捻転補法)-開竅聡耳。
   聴会(捻転補法)-開竅聡耳。
7.構音障害、嚥下困難(仮性球麻痺)
  :取穴例、手技及び穴義
   風池(捻転補法)-利機関。  
   完骨(捻転補法)、翳風(捻転補法)-利咽通痺。
   前廉泉(捻転補法)-利舌筋。
8.便秘
  :取穴例、手技及び穴義
   豊隆(捻転瀉法)、左水道(捻転瀉法)、左帰来(捻転瀉法)、
   左外水道(捻転瀉法)、左外帰来(捻転瀉法)-寛腸通便。
9.リュウ閉(尿閉、排尿困難)
  :取穴例、手技及び穴義
   中極(捻転瀉法)-通利小便。
10.遺尿(尿失禁)
  :取穴例、手技及び穴義
   関元(捻転補法)-温腎固渋。
   中極(捻転補法)-約束膀胱。