腎の生理作用と病理状態
☆腎の生理作用と病理状態
1.蔵精・発育・生殖を主る
両親から受け継いだ先天の精と、脾胃から化生された後天の精を総称して腎精と呼ぶが、腎精は人体を構成する基本物質であり、生長・発育・臓腑の各種機能を出現させる物質的基礎であり、生殖活動の物質的基礎でもある。この腎精を貯蔵(封臓)する作用が蔵精作用である。また、精は化して気に変化するが、この腎精が気に変化した物を腎気と呼ぶ。腎精・腎気の盛衰は、生殖・生長・発育に深く関与する。
蔵精作用が失調すると、不妊症や性機能減退などの生殖能力の低下、脱毛、健忘、歯の動揺、骨の痿軟、小児の発育遅延などの状態となる。
2.水を主る
体内の水液の貯留・分布・排泄は、腎の気化作用、脾の運化作用、肺の粛降作用により行われ、三焦を通った後、清なるものは臓腑に再吸収され、濁なるものは汗や尿に変化して体外に排泄されるが、それらの過程は腎の気化作用が終始働いている。この作用が失調すると水腫、小便不利などとなる。
3.納気を主る
呼吸を主る臓腑は肺であるが、腎がしっかりと吸気を行い(摂納)、呼吸が浅くなることを防ぐ作用があるからバランスのよい呼吸ができる。“肺は呼気を主り、腎は納気(吸気)を主る”と言われる所以である。
この作用が失調すると、喘息、呼吸困難、息切れなどが現れる。
4.恐は腎の志
恐は驚と似ているが、恐はいつもびくびくする、おどおどするなど恐れる、恐がるなどの感情である。恐という刺激が過剰になると、腎気・腎精を損傷し、膀胱の気化作用にも影響し、排尿異常とりわけ遺尿がおきやすくなる。また、腎気・腎精が虚弱となると恐という感情を感じやすくなる。
5.唾は腎の液
唾も涎も口津(唾液)であるが、唾は唾液の中で比較的ねっとりしたものを指し、腎気・腎精の変化したものである。唾液には腎気・腎精を滋養する作用もある。
6.体は骨に合し、骨を主り髄を生じ、華は髪にある
精は髄を生じる作用がある。髄は骨の中にあり、骨は髄によって栄養される。腎精が充実していると髄の化生も充足し、その結果骨も頑強となるのである。
腎精が不足すると、骨髄の下元が不足して骨を栄養することができなくなるために骨が痿軟となって骨折しやすくなり、発育不良、小児の泉門閉鎖不全などとなる。
“歯は骨余”と言われているが、歯牙もまた腎精によって栄養されている。腎精が充実していると歯もしっかりとしているが、腎精が不足すると歯はぐらついて抜けやすくなる。
また、脳は髄が満たしてできており、別名“随海”ともいう。精が髄に化生して脳を満たすため、腎気・腎精の不足によって随海を満たすことができなくなると健忘となる。
“髪は血余”と言われているが、髪は血および腎精が充実していることで脱落せず、黒く艶がある。
精と血は互いに化生することでそれぞれの不足を補い合う。血は精に化成して精を満たし、精は血に化成して血の不足を補い、滋養し合っている。
腎精が不足すると、血が腎精を補いきれなくなる。そのために腎精不足となると、髪の艶がなくなったり脱毛となるのである。
7.耳および前後二陰に開竅する
腎は耳に開竅するため、腎の精気が充足していると聴覚は鋭敏となる。腎精が不足すると、耳の機能も低下するため、難聴や耳鳴りとなるのである。
二陰とは、前陰(外生殖器)と後陰(肛門)を指す。排尿は膀胱が行うが、膀胱の気化作用は腎の気化作用が充実してことにより、初めて排尿を行うことができる。そのため、腎精が不足したり、腎の温煦作用が低下すると頻尿、遺尿あるいは尿量減少、尿閉などの症状が出現する。
大便の排泄も、腎の気化作用の影響を受ける。腎陰・腎陽の不足による排便困難や大便秘結、腎気不固による泄瀉や滑脱などがおこる。