肝の生理作用と病理状態

投稿者: | 2017年8月23日

☆肝の生理作用と病理状態

1.疏泄を主る-疏泄作用には次の3つの内容がある。
①気機を調節する
・気機とは気の昇降出入のことであり、人体の気の流れの総称である。気機は、肝気が条達(のびやかにめぐる)することにより全身を正常に通暢することができ、その結果気血は調和し、経絡が通利して臓腑、器官、経筋、皮毛は栄養されて正常に活動することができる。
疏泄作用が失調すると、
:気欝(気滞)という病変となり、乳房、胸脇部、少腹部をはじめ全身各所に脹悶感あるいは脹痛が出現する。
:肝の昇発が過度となり、肝気上逆が亢進する。その結果、めまい、頭痛、吐血、喀血などの症状が出現したり、突然意識障害をおこす。
②脾胃の運化作用を促進する
・肝の疏泄作用が失調すると、脾の昇清作用、胃の降濁作用も失調する。
肝の疏泄作用が失調して脾に影響した状態を肝脾不調(肝気犯脾)といい、肝気欝結の症状に加えて脾気虚の症状が出現する。
肝の疏泄作用が失調して胃に影響した状態を肝胃不和(肝気犯胃)といい、肝気欝結の症状に加え胃の和降作用が失調したアイ気、アク逆、カン腹脹満、悪心嘔吐などの症状が出現する。
③情志を調節する
・肝の疏泄作用は情志を調節し、肝気が条達できないあるいは肝の昇発が過度になると、イライラ感、易怒、精神抑欝などの症状が出現する。

2.蔵血を主る
人体の活動時に、肝は疏泄作用と協調して全身を巡らせる血液量を調節する。その結果五臓六腑をはじめ、女子胞、経筋など全身を栄養することができる。
蔵血作用が失調すると、血虚あるいは出血傾向となり経筋の拘急、しびれ、閉経、崩漏などとなる。
また、肝は罷極の本(疲労に耐える臓)と言われており、肝はストレスから身体を守る作用も担っている。

3.怒は肝の志
肝は、疏泄を主り条達を好むが、陽気の昇発はこれらの作用によって営まれる。しかし、これらの作用が失調する、あるいは激しく怒ると昇発過度となり、わずかな刺激でも怒りやすくなる。また、肝の陰血が不足すると、相対的に肝陽が亢進するために昇発過度となりやすくなる。

4.涙は肝の液
肝は目に開竅するが、肝の陰血が不足すると目を潤すことができなくなったり、情志の調節が失調すると涙の分泌量も増える。

5.体は筋に合し、華は爪にある
筋は経筋=筋肉のことを指す。肝血が充足していれば経筋は養われ、本来の運動が機敏に力強く動くことができる。肝の陰血が不足して筋が栄養されなくなると、運動不利、振戦や肢体のシビレ感等が出現する。
筋余といわれている爪は、肝血の滋養を受けて栄養される。肝血が充足していれば爪は紅潤で艶があり、肝血が不足すると爪の色は淡くなり、柔らかく、薄くあるいは肥厚し、もろく割れやすくなる。

6.目に開竅する
五臓六腑の精気はすべて目に上注するが、肝の経脈は目系に連絡し、また視力は肝血の滋養に依存していることから肝は目に開竅すると言われる。
肝の作用が失調して、肝血が不足すると目が乾きやすくなったり、物が見にくくなったり夜盲となる。また、肝火や肝風が生じると目の痛みや痒みがおこり、肝経に湿熱が流注すると目やにが多くなる。