☆ 尿量減少（小便不利）
本症は、尿量自体が少なくなり、そのために排尿困難となる状態を指し、中医では小便不利という。似た症状で、小便不通（尿閉）があるが、小便不通は尿が膀胱に貯留しているにも関わらずに排尿できない状態を指し、小便不利は尿量減少あるいは無尿となるために排尿できないものである。
1.肺気不宣による小便不利
：病因病機
風邪の侵襲によって肺気の宣散・粛降作用が失調し、その影響で津液が膀胱に降りなくなるために小便不利となる。（中医では風水証と呼ぶ）
：鑑別点
突然に起こる小便不利。感冒の罹患とともに出現あるいは感冒の症状に引き続いて出現する。
眼瞼から始まり四肢から全身に浮腫が生じる。
：随伴症状
悪寒・発熱、悪風、関節痛、咳嗽、呼吸促迫、咽喉部の違和感など。
：舌脈 舌苔－白薄。脈－浮緊、浮数など。
：弁証－去風、宣肺行水。 ：治法－去風、宣肺行水。
：取穴例
風池(瀉法)－去風。外関(瀉法)－解表。列欠(瀉法)－宣肺理気。中極(瀉法)－通利小便。
2.膀胱湿熱による小便不利
：病因病機
脂濃いものや甘いもの、味の濃いものの過食やアルコールの常飲などにより中焦に溜まった湿熱が下焦に流注し、膀胱の気化作用を失調させたために小便不利となる。
：鑑別点
小便不利。尿や尿道の灼熱感をともなう。
：随伴症状
小便黄赤、小腹部の脹悶感や脹痛、身熱、口渇少飲（冷飲を好む）、排尿痛、尿混濁など。
：舌脈 舌質－紅、舌苔－黄膩。脈－滑数など。
：弁証－膀胱湿熱。 ：治法－清熱利湿、化気行水。
：取穴例
中極（瀉法）、陰陵泉（瀉法）－清熱利湿。気海（瀉法）－行気散滞。
3.肝気欝結による小便不利
：病因病機
長期にわたってストレスを感じたり、精神的な抑欝を受けたり、突然強い精神的な刺激を受けることにより、あるいは陰血不足の状態が長引くために肝気欝結となり、あるいは寝たきりなど長期間身体を動かせ
ないために気滞が生じ、気滞に伴って水道が通調しなくなるために小便不利となる。
：鑑別点
小便不利。少腹部の脹悶感を伴う。
：随伴症状
イライラ感、精神抑欝感、易怒、ため息が多い、胸脇部や少腹部、乳房の脹満感や脹痛、月経不順などあ
るいは肝欝症状はない。
：舌脈 舌質－紅、苔－白薄。脈－弦。
：弁証－肝気欝結。 ：治法－疏肝解欝、化気行水。
：取穴例
太衝（瀉法）、陽陵泉（瀉法）、外関（瀉法）－疏肝理気。列欠（瀉法）－宣肺理気。
水分（瀉法）－必別清濁。中極（瀉法）－通利小便。
4.腎陰虚による小便不利
：病因病機
精血不足、津液虚損、熱病による傷陰、久病、房事過多、五志過極、飲酒過度などによって腎陰が虚して内熱が生じ、内熱によって膀胱の気化作用が失調するために小便不利となる。
：鑑別点
小便不利、尿量減少。尿は濃い。尿や尿道の熱感を伴うこともある。
：随伴症状
頬部紅潮、潮熱、盗汗、五心煩熱、口乾、頭のふらつき、消痩、耳鳴り、腰膝酸軟など。
：舌脈 舌質－紅、舌苔－少or無苔。脈－細数。
：弁証－腎陰虚。 ：治法－滋陰清熱、化気行水。
：取穴例
中極（瀉法）－清瀉欝熱。復溜（先瀉後補）－滋陰降火。太谿（補法）、照海（補法）－滋陰補腎。
5.脾陽虚による小便不利
：病因病機
元来脾胃気虚があるためにそれが進行する、あるいはなま物や冷たいものを食べすぎたため、または寒いところに長くいたり身体を冷やしたために脾陽虚となり、そのために膀胱の気化作用も低下するために小便不利となる。
：鑑別点
小便不利。腰以下の浮腫が強くなる。冷えると症状は悪化する。
：随伴症状
寒がる、腹部冷痛、水様便または未消化便を下痢する、倦怠感、脱力感、面色萎黄、腹脹、食欲不振、浮
腫など。
：舌脈 舌質－淡、胖大、湿潤。舌苔－白膩。脈－沈遅で無力など。
：弁証－脾陽虚。 ：治法－温補脾陽、化気行水。
：取穴例
関元（補法または灸頭鍼(補法)）、脾兪（補法）－温補脾腎。陰陵泉（補法）、水分（補法）－健脾利水。
中極（補法）－化気行水。
6.腎陽虚による小便不利
：病因病機
腎気虚からの発展、久病、先天不足、房事過多、外邪による陽気の損傷などによって腎陽が虚損し、その影響で膀胱の気化作用を補助することができなくなるために小便が不利となる。
：鑑別点
小便不利。全身の浮腫があり、腰以下の浮腫が強くなる。冷えると症状は悪化する。
：随伴症状
寒がる、四肢や腰腹部の冷え、未消化便を下痢する、精神不振、腰膝酸軟、面色蒼白、咳嗽や喘鳴、懶言、
倦怠無力感、息切れなど。
：舌脈 舌質－淡、苔－白薄。脈－沈遅で無力など
：弁証－腎陽虚。 ：治法－温腎壮陽、化気行水。
：取穴例
関元（灸または灸頭鍼（補法））、腎兪（補法）－温腎壮陽。
水分（補法）、気海（補法）、中極（補法）－化気行水。