夜尿症(遺尿)

投稿者: | 2017年10月20日

☆ 夜尿症(遺尿)

本症は、夜間睡眠中など無意識下のうちに尿を漏らす状態で、児童に多く診られ、夜尿症を指す。中医では遺尿と呼ぶ。似た症状で、小便失禁があるが、小便失禁は意識下のうちに尿を漏らす状態である。遺尿は中風、傷寒、温病の過程にもおこるが、それらによるものは本項には含めない。

1.腎陽虚による遺尿
:病因病機
 腎気虚からの発展、久病、先天不足、房事過多、外邪による陽気の損傷などによって腎陽が虚損し、あるいは小児の任督未成熟などにより腎陽が不足して下元の虚寒を来たし、腎の封蔵、膀胱の制約機能が低下したために遺尿となる。
:鑑別点
 遺尿。尿量が多く希薄。冷えると悪化する。
:随伴症状
 寒がる、四肢や腰腹部の冷え、未消化便を下痢する、五更泄瀉、小便清長、下腹部冷痛、浮腫、腰膝酸軟、
 懶言、精神不振、倦怠無力感など。
:舌脈 舌質-淡、苔-白薄。脈-沈遅で無力など
:弁証-腎陽虚。 :治法-温腎固渋。
:取穴例
 関元(灸または灸頭鍼(補法))、腎兪(補法または灸頭鍼(補法))-温補腎陽。
 中極(補法)-約束膀胱。

2.腎陰虚による遺尿
:病因病機
 精血不足、津液虚損、熱病による傷陰、久病、房事過多、五志過極、飲酒過度などによって腎陰が虚して内熱が生じ、内熱によって膀胱の制約機能が失調したために遺尿となる。
:鑑別点
 遺尿。尿意急迫。尿量は少なく濃い。尿や尿道の熱感を伴うこともある。
:随伴症状
 頬部紅潮、潮熱、盗汗、五心煩熱、口乾、頭のふらつき、消痩、耳鳴り、腰膝酸軟など。
:舌脈 舌質-紅、舌苔-少or無苔。脈-細数。
:弁証-腎陰虚。 :治法-滋陰清熱。
:取穴例
 中極(瀉法)-清瀉欝熱。復溜(先瀉後補)-滋陰降火。太谿(補法)、照海(補法)-滋陰補腎。

3.中気下陥による遺尿
:病因病機
 肉体疲労、精神疲労、慢性の下痢、分娩過多、産後の消耗などによって元気が損耗し、そのために気虚下陥となると膀胱の制約が無力になるために遺尿となる。
:鑑別点
 遺尿。尿量が多く希薄。肉体疲労によっ悪化する。
:随伴症状
 無力感、脱力感、精神疲労、息切れ、懶言、食欲不振、大便溏薄、カン腹下墜感、内臓下垂、身体消痩、
 めまい、面色萎黄など。
:舌脈 舌質-淡、舌苔-白。脈-緩、虚など。
:弁証-中気下陥。 :治法-補中益気、固渋。
:取穴例
 中カン(補法)、足三里(補法)-補中益気。気海(補法)-培補元気。中極(補法)-約束膀胱。

4.脾肺両虚による遺尿
:病因病機
 疲労倦怠、素体の虚弱、久病などにより脾気虚となると肺を栄養することができなくなる、あるいは慢性的な咳嗽や普段から虚弱な体質のために肺気虚となると脾肺両虚となりやすく、その影響で膀胱が尿を制約できなくなるために遺尿となる。
:鑑別点
 遺尿。尿量が多く希薄。肉体疲労によって悪化する。
:随伴症状
 無力な咳喘、水様の痰、少気、声に力がない、食欲不振、泥状便、浮腫、精神疲労、無力感など。
:舌脈 舌質-淡、歯根、胖大。脈-細、弱など。
:弁証-脾肺両虚。 :治法-補益脾肺。
:取穴例
 脾兪(補法)、肺兪(補法)-補益脾肺。気海(補法)-培補元気。中極(補法)-約束膀胱。