咳嗽

投稿者: | 2017年10月21日

☆ 咳嗽

このページは、鍼灸師、医師向けの鍼灸治療法を紹介するページです。
頻回な咳嗽でお悩みの方は、はりきゅうマッサージ すこやかな森 で治療をお受けいただけます。

本症は、肺疾患の主要な症状の一つであり、肺気上逆によっておこる。古代医家は、咳嗽をその状態から
“咳”と“嗽”に分類していた。咳は肺気上逆や粛降作用の失調による肺気不降によっておこる音で、痰を
伴わないものを指し、嗽は痰を喀出し音がないものを指すとしていたが、実際には同時に診られることが多
く現代では総称して咳嗽と呼んでいるいる。なお、咳嗽とともに痰を喀出する、あるいは喀痰によって咳嗽
を誘発するものは咳痰に記述する。

1.風寒による咳嗽
:病因病機
 風寒の邪気が肌表に侵襲し、肺を犯して肺気の宣散・粛降を阻害したために咳嗽がおこる。
:鑑別点
 咳嗽。
:随伴症状
 悪寒が強く発熱は軽い、頭痛、身体痛、無汗、鼻閉、痰や鼻水は透明で水様など。
:舌脈 舌苔-白薄。脈-浮緊など。
:弁証-風寒。 :治法-去風散寒、宣肺止咳。
:取穴例
 風池(瀉法)-去風。外関(瀉法または灸頭鍼(瀉法))-散寒解表。尺沢(瀉法)-粛肺降逆。

2.風熱による咳嗽
:病因病機
 風寒の邪気を感受して化熱する、あるいは風熱の邪気を感受して肺を犯し、肺気不宣となるために咳嗽が
 おこる。
:鑑別点
 咳嗽。
:随伴症状
 発熱、悪風、頭痛、無汗または少汗、軽度の口渇、黄色く粘稠な痰や鼻水、咽喉の発赤と疼痛など。
:舌脈 舌質-紅、舌苔-薄黄。脈-浮数。
:弁証-風熱。 :治法-去風清熱、宣肺止咳。
:取穴例
 風池(瀉法)-去風。外関(瀉法)、大椎(瀉法)-清熱解表。尺沢(瀉法)-粛肺降逆。

3.燥邪犯肺による咳嗽
:病因病機
 外界の燥邪が肺を侵襲し、肺気の宣散・粛降が阻害され肺気が粛降できなくなるために咳嗽がおこる。
:鑑別点
 咳嗽。
:随伴症状
 発熱、悪寒、鼻閉、無汗、鼻孔やのどの乾燥、咽喉のかゆみや痛み、痰は少量粘稠で切れにくいあるいは
 無痰、甚だしければ胸痛を感じるなど。
:舌脈 舌尖-紅で乾燥、舌苔-黄。脈-浮または浮数。
:弁証-燥邪犯肺。 :治法-潤燥宣肺、止咳。
:取穴例
 風池(瀉法)-去風。外関(瀉法)-解表。尺沢(瀉法)-粛肺降逆。
 肺兪(補法)、照海(補法)-滋陰潤燥。

4.暑湿犯肺による咳嗽
:病因病機
 湿気が多く蒸し暑い時期に暑湿の邪気が肺に阻滞し、肺気の宣散・粛降作用を失調させるために咳嗽がお
 こる。
:鑑別点
 咳嗽。
:随伴症状
 粘稠で多量の痰、頭重、身重感、胸苦しい、身体熱感があり汗が多いが発汗しても熱感が軽減しない、顔
 面紅潮、小便黄赤、口渇少飲など。
:舌脈 舌質-紅、舌苔-薄黄。脈-濡数など。
:弁証-暑湿犯肺。 :治法-清暑宣肺、止咳。
:取穴例
 委中(瀉法)、曲沢(瀉法)-清暑解熱。尺沢(瀉法)、豊隆(瀉法)-清肺去痰。

5.熱邪壅肺による咳嗽
:病因病機
 外感風熱の侵襲、外感風寒の化熱、他の臓腑からの熱の転移、喫煙過度などによって肺に熱が欝積し、そ
 の影響で粛降作用を失調させるために咳嗽がおこる。
:鑑別点
 咳嗽。
:随伴症状
 黄色く粘稠な痰、壮熱、口渇多飲(冷飲を好む)、胸痛、煩燥不安、呼吸促迫、鼻翼呼吸、大便秘結、小
 便短赤など。
:舌脈 舌質-紅。舌苔-乾燥または黄膩。脈-数、滑数など。
:弁証-熱邪壅肺 :治法-清肺止咳。
:取穴例
 魚際(瀉法)-清泄肺熱。少商(瀉法)-清宣肺気。尺沢(瀉法)-降気宣肺。

6.肝火犯肺による咳嗽
:病因病機
 長期にわたるストレス、精神的な抑欝、強い精神的刺激や陰血不足などによって肝気欝結となり、肝欝が
 長引いたために化火した肝火が肺に侵襲して粛降作用を障害させるために咳嗽がおこる。
:鑑別点
 咳嗽。ストレスを感じると咳嗽は悪化する。
:随伴症状
 粘稠で喀痰しにくい痰、のどに異物感があり咳嗽をしてもとれない、面紅目赤、口渇多飲(冷飲を好む)、
 イライラ感、怒りっぽい、呼吸困難など。
:舌脈 舌質-紅、舌苔-黄。脈-弦数など。
:弁証- :治法-
:取穴例
 行間(瀉法)、尺沢(瀉法)-清肝肅肺。陽陵泉(瀉法)-疏肝利胆。列欠(瀉法)-粛肺理気。

7.痰湿阻肺による咳嗽
:病因病機
 脂濃いものや甘いもの、味の濃いものの過食やアルコールの常飲により、あるいは久咳傷肺によって肺の
 輸布が悪くなったために痰湿が生じ、その痰湿が肺に停滞して肺の粛降作用を失調させるために咳嗽がお
 こる。
:鑑別点
 痰がのどに絡むために咳嗽が出て、喀痰すると咳嗽が止まる。
:随伴症状
 白色で多量の痰、胸悶、痰を喀出すると咳嗽や胸悶は軽減、食欲不振、腹脹、悪心・嘔吐、顔や足のむく
 みなど。
:舌脈 舌苔-白膩。脈-濡、滑など。
:弁証-痰湿阻肺。 :治法-去痰降濁、止咳。
:取穴例
 豊隆(瀉法)、陰陵泉(瀉法)-燥湿化痰。列欠(瀉法)-粛肺理気。尺沢(瀉法)-降気粛肺。

8.肺気虚による咳嗽
:病因病機
 慢性的な咳嗽のため、普段から虚弱のために肺気が不足する、あるいは脾気虚のために肺を栄養すること
 ができないために肺気虚となり、粛降作用が低下するために咳嗽がおこる。
:鑑別点
 力のない弱々しい咳嗽。
:随伴症状
 少気、水様の痰、自汗、悪風、感冒にかかりやすく治りにくい、声が低く弱い、精神疲労、無力感など。
:舌脈 舌質-淡、舌苔-白薄。脈-弱で無力など。
:弁証-肺気虚。 :治法-補益肺気。
:取穴例
 太淵(補法)、肺兪(補法)-補益肺気。脾兪(補法)-健脾益気。膏肓(補法)-補虚抗労。
9.肺陰虚による咳嗽
:病因病機
 長期にわたる咳嗽、熱病や虚熱、実熱などの影響によって陰液を損傷したために肺の滋養ができなくなり、
 その影響で肺の粛降作用が失調するために咳嗽がおこる。
:鑑別点
 乾咳。
:随伴症状
 粘稠で少量の痰、口乾、嗄声、消痩、痰に血が混じることもある、午後潮熱、頬部紅潮、盗汗など。
:舌脈 舌質-紅、舌苔-少または無苔。脈-細数。
:弁証-肺陰虚。 :治法-補益肺陰。
:取穴例
 復溜(先瀉後補)-滋陰降火。肺兪(補法)、腎兪(補法)-補益肺腎。膏肓(補法)-補虚抗労。
 照海(補法)-滋陰補腎。

10.肺腎陰虚による咳嗽
:病因病機
 長期にわたる咳嗽、精血不足、津液虚損、熱病による傷陰、久病、房事過多、五志過極、飲酒過度などに
 よって肺腎が虚して内熱が生じて肺の滋養ができなくなり、その影響で肺の粛降作用が失調するために咳
 嗽がおこる。
:鑑別点
 乾咳。
:随伴症状
 痰は少なく粘稠または無痰、口乾、嗄声、咽頭痛、骨蒸潮熱、頬部紅潮、盗汗、腰膝酸軟、遺精など。
:舌脈 舌質-紅、舌苔-少または無苔。脈-細数。
:弁証-肺腎陰虚。 :治法-滋陰降火、止咳。
:取穴例
 復溜(先瀉後補)-滋陰降火。肺兪(補法)、腎兪(補法)-補益肺腎。膏肓(補法)-補虚抗労。
 照海(補法)-滋陰補腎。

11.脾虚湿困による咳嗽
:病因病機
 疲労や過労、精神疲労などによって脾気虚となり、水湿を運化できなくなって肺に阻滞して粛降作用を障
 害させるために咳嗽がおこる。
:鑑別点
 咳嗽。肉体疲労や精神疲労によって咳嗽は悪化する。
:随伴症状
 白色で喀痰しやすい多量の痰、浮腫、息切れ、疲労感、無力感、元気がない、懶言、食欲不振、食後の腹
 脹、泥状便など。
:舌脈 舌質-淡、胖、歯痕、舌苔-白膩。脈-虚、緩など。
:弁証-脾虚湿困。 :治法-健脾利湿。
:取穴例
 陰陵泉(補法)、脾兪(補法)-健脾利湿。肺兪(補法)、太淵(補法)-補益肺気。

12.腎陽虚による咳嗽
:病因病機
 腎気虚からの発展、久病、先天不足、房事過多、外邪による陽気の損傷などによって腎陽が虚損すると、
 腎の納気作用も低下となるためにおこる。
:鑑別点
 疲労時や、冷えると咳嗽が悪化する。甚だしくなると咳嗽に呼吸困難を伴い、あるいは呼吸困難についで
 咳嗽がおこるようになる。
:随伴症状
 泡沫状の薄い痰、息切れ、顔色が白くむくむ、肢体の浮腫、咳嗽が続くと尿を失禁する、寒がる、小便清
 長、未消化便を下痢する、五更泄瀉、下腹部冷痛、腰膝酸軟など。
:舌脈 舌質-淡、嫩、舌苔-滑潤。脈-沈、遅などで尺脈無力。
:弁証-腎陽虚。 :治法-温補腎陽、補腎納気。
:取穴例
 関元(灸または灸頭針(補法))-温補腎陽。腎兪(補法)、気海(補法)-補腎納気。
 膏肓(補法)-補虚抗労。